けど、今日これで何回位溜息を漏らしたんだろ…
幸せ、本葉に逃げちまうのかもしれねぇなぁ…

そんなことを考えていると、また溜息を漏らしていた。

「また溜息ついてる」

クスッと笑って、アイツはその綺麗な掌で俺の両頬を包んだ。

「ヤメロ、気持ち悪い」

俺はアイツの掌を振り払い、また溜息をついた。

本当は、気持ち悪くなんかなくて。
寧ろ心地よくて、離したくなんかなかったけど、なんだか照れくさくて。
頬が熱くなっていたことをアイツに気付かれないように、すぐに引き離してしまって。

本当はもっと、アイツの体温に触れていたくて。

「聖、酷い」

「酷くねぇよ、バーカ」

そう言って髪を掻き上げると、アイツは小さく苦笑いを漏らした。
こんな顔、させたくないのに。

「…で、何か用あんだろ?」

俺はアイツのこんな顔を見てなんかいられないから、話を変えた。

「うん、ちょっとさ…場所変えない?」

アイツが少し申し訳なさそうに首を傾けると、俺は小さく頷いた。



アイツに言われるままに移動した場所は、近所の公園。
俺が適当にブランコに乗っていると、両手にその辺の自販機で買ってきたのであろう、中身の入った缶を持ってきたアイツが、俺の目の前で少し腰を曲げて、頬に片方の缶を当ててきた。

「寒いでしょ?コーヒー買ってきたから…俺のおごり」

そう言って微笑むから、俺は黙って頬に缶を当てているアイツの掌に触れ、小さく「ありがと」と呟いた。

温かいコーヒーの缶に触れているせいか、アイツの掌がいつも以上に温かく感じた。

そのコーヒーとアイツの掌に触れたままで、少し浸っていると、少し眠気が襲ってきた。

「聖、いつまでくっついているつもり?」

クスッと笑いを含んだアイツの声に、眠気から引き戻される。
その上、少しの間だけど、アイツの温かさに浸っていたという恥ずかしさから、更に顔が真っ赤になり、アイツの胸元を押して身体を引き離した。

あぁ…マジで顔から火噴きそう…。

とりあえず缶を開けて、コーヒーを一口飲んで照れを隠すのに俯いた。

「あ、聖照れてるの?」

「照れねぇっつーの…バカ田口」

吐き捨てると、アイツは困ったように笑った。
それと同時に、髪に優しい感触がした。

「馬鹿でも構わないよ…聖が言うなら」

耳元に息がかかるような距離。
俯いているから表情も、どうなっているかも解らない。髪への感触が、ゆっくりと伝わって頬へと下りてくる。

頬に、温かい感触。
田口の、温もりと感触が、心地良い。

無意識に俺は、アイツの掌に頬擦りしていて。

「聖…可愛い…」

そう言ってアイツは俺の顔を上げさせて、小さく微笑んだ。
また、いつもと変わらない柔らかい笑みを見せて。

「顔真っ赤〜…」

「赤くねぇよバカ田口!」

「馬鹿でも良いってば…」

そう言いながら、アイツは額を俺の額に合わせてまた微笑む。

いや、どうでも良いけど近いから!顔近いって!

「ちょっ…邪魔…!」

俺はアイツの胸元を押して必死に引き離そうとするけど、それもただの無駄で。

このままじゃ、俺ヤベェし…。
本当、恥で死にそう…。

「邪魔とか本当、酷いし…」

アイツはいつもより少し低めの声で呟いて、俺の手首を掴んだ。
そのまま俺の身体を引き寄せて、俺はアイツの胸元に顔を埋める形になっていた。

「ね…馬鹿の次は邪魔?聖は俺のこと嫌い?」

俺を見つめるアイツの瞳が、なんだか少し寂しそうで、俺は少し、胸が締め付けられるような気がした。

「嫌いなワケ…ねぇし…」

声が掠れそうになる。

「じゃあどうして?俺は邪魔なの?」

「違…っ」

嫌いじゃねぇし、邪魔なワケねぇじゃん…
寧ろ、好きすぎて可笑しくなりそうだし…。
田口が居なくなったら、俺…



マジで生きてけねぇよ…。



「俺はこんなに聖のコトが好きなのに…」

アイツは泣きそうな顔をして
今にも掠れちまいそうな声で

更に強く、俺を抱きしめた。

息が苦しくて
胸が痛くて
アイツがこんなにも泣きそうな顔をするから
俺も少し、泣きそうになって。

「聖…好き」

いつもの俺なら
「俺は嫌い」って、言うんだろうけど。

今の俺は、声すらも出なくて。

無意識に頬へと一筋、涙が流れて。

「好き…早く気付いてよ、聖…」

アイツの掌が、髪を梳くようにして撫でてくる。
俺が泣いていることに、アイツは気付いているんだろうか?

「…バカ田口…」

「聖も馬鹿だよ」

いつもの優しいような、棘を刺すような口調で。

「…悪かったな、馬鹿で」

ふて腐れた口調で俺が言えば

「そんなトコも大好き」

なんて…

本当、馬鹿だよな。

「聖、また煙草吸ったの…?」

「悪かったな」

「身体、壊すよ…?」

優しく微笑むアイツに、俺は何も言えなくて。

「俺はね、聖が俺のコトをどう思ってるか知りたいの」

「知らなくて良い」

「それでも知りたい」

アイツは甘えるような声で俺に縋ってくる。
本当、可笑しくさせる気かって。

「勝手に考えろよ」

自分の口で言えるワケねぇし…
言ったら本当、死ぬくらい恥ずかしいし…

あぁ、俺ってつくづく救われねぇよな。

「…嫌い?」

「嫌いじゃねぇっつったし…」

「じゃあ、好き?」

アイツは悪戯っぽく笑って、俺の額に軽く口付けた。

「なっ…」

「聖が俺のコト嫌いでも…俺はずっと好き」

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