『別れよっか?』

お前が口にした言葉が信じられなくて

『聖は、俺のコトなんか好きじゃないんでしょ?』

受け入れたくなんかなくて

『だから、別れよっか』

ソレ以上お前の言葉を聞くのが怖くて
俺は耳を塞いだ。

『これじゃ意味ないでしょ?』

『煩ぇ…ッ』

そうやって苦笑いを浮かべるお前に

『煩ぇ、煩ぇ…ッ!』

ヒステリックに叫んで、お前の声を掻き消して
現実から逃れようとした。













『聖…』

何か寂しげな目をして
そんな顔、見たくなんかないのに。
けど、そんな顔させてしまった原因は他でもない俺自身で。

『別れてやるよ、別れりゃ良いんだろ!?』

口汚く罵る言葉も
ただの哀願にも聞こえて
俺はただ、嘘だと言って欲しくて。

『お前なんか要らねぇ!お前なんか…ッ』

言ってる自分が哀れに見えて

本当、馬鹿だよな、俺…

こう言えば、お前が引き止めてくれるような気がしたから…

『お前なんか居なくても良いし…ッ』

憎まれ口を叩いて
ごめんってお前が謝ってくるって



そう思ってたのに…



『そっか…そうだよね、聖には俺が居なくたって平気だもんね?』

『え…』

『別れよう、聖の望み通り…』

違う…

違う、違う…ッ!

俺はこんなことを望んでいたんじゃない…
俺はただ、お前に引き止めて欲しくて…

なのに、なのに…ッ

『さよなら』

嘘だ…

嘘だ、嘘だと言ってくれ…

こんなの悪い冗談だよな?
なぁ、そうだと言ってくれよ…

嘘だと言ってくれよ…ッ!



俺は去り行くお前を追うことも出来ず
呼び止めることすらも出来ず

ただ、その場に崩れ落ちた。

お前のそのたった4文字の言葉で、俺は綺麗に組まれたジェンガを崩すように、意図も簡単に崩れ落ちた。



『田口…ッ』

一気に涙が込み上げてきて
息が詰まって

苦しくて、苦しくて

『たぐ…っ』

涙が枯れる程泣いて
でも枯れることはなくて

虚しさだけが部屋中に響いて

今になってお前の大きさが身に染みて

お前が居なくなっちまったら、俺…



どうすれば良いんだよ…?



いつもみたいに笑って
馬鹿みたく『好き』って言い続けて
また笑って…



こうやって俺が寂しがっても、抱きしめてくれる腕は、もうない。
縋らせてくれる胸も、柔らかな唇も、優しい掌も、全て、もう此処にはない。

何でも許してくれたお前のあの笑みも、消えてしまった。

失ってから気付いた。
隣にいて当たり前だと思ってた。

馬鹿だな、俺…
そんな筈ないのに…

お前は俺だけのモノだと思ってた。

でも違った。
全部俺のただの思い込み。



『淳之介…ッ』

愛してるって言ってくれたよな?
誰よりも愛してるって…お前は言ってくれたよな?

なのに…どうして…



『聖は俺のことなんか好きじゃないんでしょ?』



違う…

俺は誰よりもお前が好きで…
けど、俺は上田や亀みたいに可愛くなんか出来ないから…
だから何時だって平然を装って…

…だから?

何時もお前を拒否して…受け入れようとしなくて…

だからなのか?

なら…もうそんなことしないから…だから、なぁ…戻ってきてくれよ…

また笑って、好きだって言ってくれよ…

俺だけに、なぁ…淳之介…っ



お前が望むような、良い子になるから…
だから…戻ってきてくれよ…なぁ…

『淳之介ーッ!』



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