『じゃあ俺の金魚の名前…雄ちゃんにしよーっと』
また楽しそうに笑って
『でも、雄ちゃんにしたら俺とダブるじゃん?』
俺が頭を掻きながら言えば
『今日から雄一って呼ぶから良いの』
『なら大切に育てろよ?』
袋の中の金魚を軽くつつく。
『雄一の金魚の名前は竜ちゃんね!だから俺のコトは竜也って呼んで?』
首を傾けて顔を覗き込んでくるから、ただ何度も頷いて。
『大切に育ててね?俺のコト…』
冗談っぽく笑う姿も、愛しい。
俺には、水の中へ還って行く金魚の姿が、何故だか寂しく見えて。
破れた紙の隙間から逃げていく金魚。
例えたくなんかないけど
竜也もいつか、俺のちょっとした隙間から逃げていっちまうんじゃないかって…
馬鹿だよな、俺。
あの袋の中の金魚のように、水槽の中に閉じこめて、竜也を俺だけのモノに出来れば簡単なことなのに。
けど竜也は、俺だけのモノなんかじゃないから。
『雄一、何してるのー?』
気付いたときには、数歩分竜也が先に進んでいて。
『ごめん、ボーっとしてた』
『またぁ?あ、それより花火始まっちゃうよ?』
竜也は俺の手を取って、神社の方へと走り出した。
『ココ…凄く花火が綺麗に見えるの。この前見つけて…多分誰も知らないと思うから…』
息を切らせながら微笑んで
『2人っきり、でしょ?』
照れくさそうに笑って、竜也は髪を掻き上げた。
風に揺れた黒髪から、良い香りがした。